株式会社Insityは2025年7月と10月に、鹿児島大学獣医学部の学生の皆様を対象に、学生生活の満足度や将来のキャリア設計などに関するアンケート調査を実施しました。
学業・実習・進路選択と、多忙な日々を送る獣医学生たちは、今どのような思いを抱いているのでしょうか。
本記事では、その回答結果をもとに、獣医学教育の現状と学生たちのリアルな声をまとめてご紹介します。
目次
1. 基本データ(性別・年齢・学年)
- 有効回答数:18名(男性6名、女性12名)
- 年齢区分:21~23歳が10名と最も多く、次いで18~20歳が5名、24~26歳が3名。
- 学年:1年生2名、2年生1名、3年生7名、4年生3名、5年生5名。

回答者の中心は3〜5年生の中級〜上級生が中心で、実習や進路を具体的に考える時期の層が多かったです。
そのため、学業・将来設計への意識が高く、キャリア形成に関する回答にも具体性が見られました。
一方で、1〜2年生の回答は比較的少数のため、初学者視点の意見は限定的である点に注意が必要です。
2. 獣医師を目指した理由
回答内容 (複数回答可):
- 「動物が好きだから」:77.8%
- 「ペットを飼っていたから」:50%
- 「動物学や自然科学に興味があったから」:38.9%
- 「野生動物の保護に興味があったから」:38.9%
- 「研究に興味があったから」:22.2%
- 「親や教師に勧められたから」:11.1%
- 「ドラマや漫画の影響を受けたから」:11.1%
- 「年収が良いイメージがあったから」:5.6%

動物への愛情や自然科学への興味、野生動物の保護といった内発的動機が中心で、幼少期の体験や興味が進路選択に強く影響していることが分かります。
一方、ペットを含む小動物臨床関連の要素ではなく、社会的使命感や研究・産業動物分野への関心を挙げる回答は少なく、現時点では具体的なキャリア像がまだ定まっていない学生も多いと推察できます。
3. 卒業後の希望進路
- 回答の約85%が「小動物臨床」を希望。
- 残りの約15%「公務員獣医師 (農林水産省や市役所、保健所などを含む)」を希望

小動物臨床の人気が圧倒的に高いことが分かりました。
ただし、今回の調査対象が動物病院就職説明会に参加した学生であることを踏まえると、
母集団の特性によって偏りが生じている可能性もあることに注意する必要があります。
それでも、「臨床現場で直接動物を助けたい」という学生の想いが強いことがうかがえます。
4. 学部選択への満足度
- 「おおいに満足している」:83.3%
- 「やや満足している」:16.7%
- 「後悔している」「大いに後悔している」:0%

学部選択に対する満足度は非常に高く、多くの学生が自分の進路に誇りと納得感を持っていることがわかります。
この高い満足度を維持するためには、大学側が教育・実習・キャリア支援体制をさらに強化することが求められると言えるのではないでしょうか。
5. 所属する大学の良い点
- 「キャンパス環境が良い(アクセス・自然環境・施設の快適さ)」:72.2%
- 「教育・カリキュラムの充実(講義・実習が充実している)」: 66.7%
- 「臨床実習の機会が多い(大学病院や農場などで実践的な経験ができる)」:66.7%
- 「学生同士の交流が活発(部活動・サークル・イベントが多い)」:44.4%
- 「教授や講師の質が高い(経験豊富な教員が揃っている)」:22.2%
- 「就職・進路サポートが充実している(キャリア支援・動物病院との連携など)」:16.7%
- 「研究環境が整っている(最先端の研究施設・設備がある)」:16.7%
- 「海外研修・留学制度が充実(国際交流や海外実習の機会がある)」:16.7%
- 「授業料や奨学金制度が整っている」:5.6%

全体の7割以上が「キャンパス環境が良い」と回答しており、鹿児島の自然に恵まれた立地や快適な施設環境が学生満足度の基盤になっていることが推察できます。
鹿児島大学の広々としたキャンパスや、南九州の温暖な気候が、学生生活の充実に寄与しているのではないでしょうか。
「教育・カリキュラムの充実」(66.7%)、「臨床実習の機会が多い」(66.7%)と続き、学びの質に対する満足度も高いことがわかります。
特に臨床実習の評価が高い点は、大学附属動物病院や地域連携による実践機会が充実していることを反映していると考えられます。
「学生同士の交流が活発」と感じる学生は約半数であり、コロナ禍以降の活動制限や、学年ごとのスケジュール差によって、学内コミュニティの一体感にばらつきがある可能性があります。
今後は、学年間の交流促進イベントやキャリア座談会などが学生満足度向上に寄与すると考えられます。
6. 理想の初任給
- 「月収20万円程度」:0%
- 「月収25万円程度」:16.7%
- 「月収30万円程度」:66.7%
- 「月収35万円程度」:16.7%
- 「月収40万円程度」:0%
- 「それ以上」:0%

アンケートの結果、最も多かった回答は「月収30万円程度」(66.7%)で、次いで「25万円程度」(16.7%)、「35万円程度」(16.7%)と続きました。
「20万円」や「40万円以上」と答えた学生はおらず、大多数が25〜35万円の範囲に集中しています。
この分布からは、学生たちが現実的な金銭感覚を持っていることが読み取れます。
獣医師という職業の初任給相場(25〜30万円前後)を踏まえた回答が多く、理想と実情に大きな乖離がない点は特徴的です。
一方で、「もっと高い給与を」といった声がほとんど見られないことからも分かる通り、学生たちは給与よりも「環境の良さ」や「学びの機会」を重視する傾向が強いといえます。
自由記述や関連設問からは、「給与よりも自分が成長できるかどうかを重視したい」「働きやすい職場で長く続けたい」といった意見が複数寄せられました。
この傾向は、就職先選びにおける「スキルアップできるか」「人間関係の良好さ」「ワークライフバランス」を重視する回答とも一致しており、学生たちは“お金よりも人と環境”を軸にキャリアを考えていることが明確です。
特に獣医師のように経験と症例数が重要な職種では、「初任給は将来への投資期間」と捉えている学生が少なくありません。そのため、短期的な報酬よりも、「先輩に学べる環境」「教育体制の有無」「診療への関与度合い」といった、自らの成長に直結する要素を評価基準とする学生が多いと考えられます。
7. 就職先選びで重視する点
- 「獣医師としてスキルアップできるか」:72.2%
- 「人間関係の良好な職場で働けるか」:66.7%
- 「ワークライフバランスを大切にできるか」:50%
- 「自分の好きなこと・得意なことを活かせるか」:38.9%
- 「高い年収・昇給を見込めるか」:22.2%
- 「職場の立地の良さ (都会に近いか)」:11.1%

最も多かったのは「スキルアップできる職場か」(72,2%)と「人間関係の良好さ」(66.7%)。
この2つが突出しており、学生の多くが「技術的な成長機会」と「働きやすい職場環境」の両立を望んでいることが分かります。
特に若手獣医師の離職理由の上位には「職場の人間関係」「教育体制の不足」が挙げられることが多く、学生段階からすでに“定着しやすい職場”を意識している点が特徴的です。
一方で、50%の学生が「ワークライフバランスを大切にできるか」と回答しました。
これは、近年の若い世代に共通する傾向であり、長時間労働や過度な責任感を避けたい心理の表れでもあります。
“動物を救いたい”という使命感に加え、「自分の生活も大切にしたい」価値観が強まっていることがうかがえます。
「自分の得意を活かしたい」(38.9%)や「高収入」(22.2%)の優先度は比較的低く、学生の多くは現段階で個人の理想よりも職場全体の環境・教育体制を重視しています。
これは、実際の就職活動においても「教育制度」「院内カンファレンス」などを重視する傾向と一致します。
総合考察
今回のアンケート結果から、鹿児島大学の獣医学生は全体として学びや進路選択に非常に前向きで、目的意識の高い層であることが明らかになりました。
まず特徴的だったのは、「学部選択への満足度」が極めて高い点です。回答者のほとんどが自身の進路に誇りと納得感を持っており、獣医師という職業を“志”として捉えている姿勢が印象的でした。その背景には、自然環境に恵まれたキャンパスや臨床実習の充実といった、学びやすい教育環境があることが伺えます。
また、「獣医師を目指した理由」では、動物への愛情や自然科学への興味といった内発的動機が大多数を占め、金銭的な要素や外的影響を理由に挙げる学生はごく少数でした。これは、現代の学生が“好きなことを仕事にする”という価値観を堅実に体現している証でもあり、教育現場においてもその情熱を伸ばす支援が求められます。
一方で、キャリア形成の段階では、依然として「小動物臨床」に希望が集中しており、進路の多様性やキャリアパスの広がりが十分に認知されていない可能性も示唆されました。研究職や産業動物、公務員など、他の分野を志す学生が少数派にとどまる現状を踏まえると、大学や関連機関が実務体験・情報発信を通じてキャリアの選択肢を可視化していくことが今後の課題となるでしょう。
さらに注目すべきは、「就職先選びで重視する点」における価値観の変化です。
学生の多くが「スキルアップできる環境」「人間関係の良さ」「ワークライフバランス」を重視しており、“給与”や“立地”よりも“職場の質”を重視する時代に移行していることがはっきりと示されました。
これは、過酷な労働環境が社会問題化している獣医療業界において、若手世代が「続けられる働き方」を真剣に考えている表れでもあります。教育体制の整備やチーム文化の醸成といった“ソフト面の充実”が、今後の採用・定着の鍵を握るといえるでしょう。
総じて、本調査からは「学ぶ喜びを感じながら、成長できる職場で長く働きたい」という学生の素直な願いが読み取れます。大学側にはキャリア支援や教育のさらなる充実を、そして動物病院側には教育と働きやすさを両立する取り組みが求められます。
鹿児島大学の学生たちは、学びと成長に真摯に向き合う姿勢を持っており、彼らが臨床・研究・公衆衛生といった多様なフィールドで活躍する未来が強く期待されます。
【アンケート実施者の感想 (編集後記)】
今回、鹿児島大学の獣医学部の学生の皆さんにアンケートを実施し、その一つひとつの回答から、学生たちの真摯な姿勢と未来への希望を強く感じました。
「動物を助けたい」「自分の力で命を救いたい」——その言葉の裏には、獣医師という職業に対する深い敬意と覚悟が見えた気がします。
多くの学生が小動物臨床を志望しており、臨床現場での経験や教育体制に高い関心を寄せています。そこには、“技術を学びながら、誰かに寄り添う仕事がしたい”という純粋な想いが込められているように思います。
また、大学生活の中で感じる学びの喜びや仲間との支え合い、そして日々の努力を通じて自らの未来を切り開こうとする姿勢に、私自身も多くの刺激を受けました。
これから社会へ羽ばたく皆さんが、獣医師としてだけでなく、一人の人間としても豊かな人生を歩まれることを心より願っています。
そして、このような熱意あふれる学生の皆さんと関わる機会をいただけたことに、深く感謝申し上げます。
鹿児島大学の学生の皆さんが、未来の獣医学界を担う力強い存在として成長されることを期待しつつ、この記事を締めくくらせていただきます。
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