この記事では、県職員として家畜関係の機関に8年間勤務した筆者が、公務員獣医師の仕事内容や本音、やりがいを体験談を交えて紹介します。獣医師といえば、多くの方が「動物病院の獣医さん」を思い浮かべるでしょう。しかし、保健所や市役所などでは多くの公務員獣医師が働いています。進路選択の参考にしていただけると幸いです。
地方公務員獣医師の仕事とやりがい
地方公務員獣医師は都道府県や市町村など地方自治体の機関に勤務する獣医師で、地域に密着した仕事を行います。
仕事内容はとても幅広く、自分の適性に合わせて、豊富な専門知識を活かして仕事の幅を広げることもできるし、逆に1つの分野をじっくり極めることも可能です。
地方公務員獣医師の仕事内容は、大きく2つの分野に分かれます。
①家畜の健康を守る、畜産分野の仕事
②動物の福祉や人の健康を守る、公衆衛生分野の仕事
①家畜分野の仕事
主な配属先は、県庁や市町村役場、農林水産事務所、家畜保健衛生所、家畜試験場、畜産センター、公立の牧場などです。
家畜保健衛生所の仕事
筆者は家畜保健衛生所に8年間勤務しました。獣医師約20名と庶務2名の職場でした。家畜保健衛生所の主な仕事は、牛、豚、鶏などの血液や糞便を検査して、農家さんに家畜の健康づくりや飼い方の指導をすることです。公用車で1日2〜3軒の農家さんを巡って採血や指導をして、夕方事務所に戻ってきて検査をするというのが1日の流れでした。時々、解剖や飼育環境の見回りなどの業務も入りました。
4年目からは、死亡した家畜の病性鑑定を行う業務につきました。筆者は病理学検査を担当していました。解剖からスライド作成、診断までを自分でこなし、自分の出した診断が農家さんへの指導に還元されていくことにやりがいを感じました。
その他の職場では主に以下のような仕事をしています。
- ・県庁や役場、農林水産事務所:仕事の企画や調整
- ・試験場や畜産センター:質のいい肉や卵を作るための研究
数は少ないですが、公務員獣医師が家畜を診察する地域もあります。
②公衆衛生分野の仕事
主な配属先は、県庁や市町村役場、衛生研究所、食肉検査所、保健所、動物愛護センター、公立の動物園や水族館などです。
動物に関わる仕事には、と畜検査や、ペットの飼い方指導、保護動物の譲渡などがあります。保健所では、食中毒の検査など食品衛生に関する業務、感染症の流行を防ぐための公衆衛生に関する業務などを行なっています。
地方公務員獣医師の給与形態
全国的に、公務員獣医師の基本給は約22〜25万円で、動物病院よりはやや低めです。ただし、初任給調整手当や、期末・勤勉手当、時間外勤務手当、通勤手当などの諸手当が出るところが多いです。
地方公務員獣医師の本音・メリット・デメリット
公務員として実際に働いた際に感じた本音、メリット、デメリットを紹介します。
メリット
- ・勤務時間が決まっていて、残業をする時は手当がつく
- ・福利厚生がしっかりしている
- ・職場の人数が多く、人間関係で悩みにくい
公務員は週休2日で夏季休暇や年次休暇も取れることから、ライフワークバランスを重視したい人にはおすすめの仕事です。1つの職場の人数は動物病院に比べると多く、毎年人事異動でメンバーが入れ替わることから、人間関係も流動的で悩みにくいといったメリットもあります。
デメリット
- ・人事異動は避けられない
- ・事務作業も多い
- ・単調なルーチンワークが続くとモチベーションが下がりやすい
地方公務員の仕事にはデメリットもあります。人事異動は所属長との面談ののちに決定されます。時には、異動に伴って引越しが必要なことや、自分が希望しなかった部署に配属されることもあります。苦手な仕事が多い部署の仕事は苦痛に感じやすくなるというのが本音かもしれません。クレームや苦情対応が多い部署や殺処分を行う部署へ異動した後、耐えられなく退職される方も居るようです。2年から3年ごとに部署を異動などになるということは、地方公務員のメリットでもありますが、仕事に慣れた頃に別の仕事となってしまうというデメリットもあります。色々な仕事に触れる経験ができるという前向きな解釈ができる場合はよいですが、獣医師としてのスキルアップを感じられないという本音を言う方もいました。
獣医師というと動物に関する仕事というイメージが強いかもしれませんが、公務員の仕事には形式的な事務作業や、申請書、報告書などの書類作成もとても多いです。獣医師としての勤務であっても、動物との触れ合いがあまりない部署も存在します。また、年間通しての仕事の流れは毎年同じなので変化に乏しくなります。本音をいえば、人によってはモチベーションが低下する仕事内容かもしれません。
まとめ
公務員獣医師の仕事内容ややりがい、公務員獣医師として働く本音、メリット、デメリットを筆者の体験談も交えて紹介しました。
- ・地方公務員の獣医師は、地方自治体の機関に勤務する
- ・仕事内容は、畜産分野と公衆衛生分野の2つに分かれる
- ・公務員獣医師は食の安全と公衆衛生を守る、やりがいのある仕事
- ・ライフワークバランスが取りやすい
- ・公務員ならではのデスクワークも多い
獣医学科の卒業生は小動物臨床に進む人が多く、全国的に公務員獣医師は不足しています。公務員獣医師の仕事を知り、興味を持っていただけるとうれしいです。
公務員獣医師についての詳細をこちらに掲載しています。