この記事では、獣医学を学べる全17大学の整理からはじめ、カリキュラムの共通点と大学ごとの特色、そして各大学が公開しているカリキュラム情報の要点をまとめます。
獣医学部(獣医学科)では、動物の診療だけでなく、食の安全や人獣共通感染症、公衆衛生まで幅広い領域を6年間で学びます。
大学ごとに科目名や実習の組み方は異なりますが、日本の獣医学教育は「獣医学教育モデル・コア・カリキュラム(通称:コアカリ)」を基盤に整備されており、卒業時点で身につけるべき到達目標が示されています。
目次
獣医学部がある大学
獣医学を学べる大学(獣医学部・獣医学科など)は日本に17校あり、国立10校・公立1校・私立6校です。
国公私立の区分は次のとおりです。
【国立】
北海道大学、帯広畜産大学、岩手大学、東京大学、東京農工大学、岐阜大学、鳥取大学、山口大学、宮崎大学、鹿児島大学
【公立】
大阪公立大学
※大阪公立大学は、2022年4月に大阪市立大学と大阪府立大学が統合して開学した公立総合大学です。
【私立】
酪農学園大学、麻布大学、北里大学、日本大学、日本獣医生命科学大学、岡山理科大学
このあと、まずは「獣医学部のカリキュラム」の全体像(共通点と、大学ごとに差が出やすいポイント)を押さえたうえで、各大学が公式に公開しているカリキュラム情報を順に見ていきます。
獣医学部のカリキュラム
日本で獣医師になるには、大学の獣医学の正規課程(6年制)を修了して卒業し、獣医師国家試験に合格する、というルートになります。
獣医学部の学びは大学ごとに科目名や配置は違っても、到達すべき力の土台は共通です。
背景には「獣医学教育モデル・コア・カリキュラム(通称:コアカリ)」があり、日本の獣医学教育における共通到達目標として位置づけられています。
基本的には、獣医師国家試験に合格することを目標の一つとしてカリキュラムが組まれているということですね。
一方で、実習の場・重視する分野・研究の比重は大学により特色が出ます。
たとえば、麻布大学や日本獣医生命科学大学は、隣接する大学病院を利用した臨床実習に力を入れています。また、北海道大学と帯広畜産大学の共同獣医学課程(VetNorth Japan)のように、大学間で授業・実習を一体で編成する取り組みもあります。
各獣医大学のカリキュラム
各獣医大学とも、カリキュラムを公式に公開しています。
ここでは、受験生・保護者の方が比較しやすいように、「公式ホームページに書かれている範囲」で要点だけを抜粋して整理します。
北海道大学 獣医学部 共同獣医学課程
研究に強いと言われる北海道大学ですが、臨床分野においても評価されています。
帯広畜産大学との共同獣医学課程です。
参考)
カリキュラム(共同教育課程)|北海道大学 大学院獣医学研究院・獣医学部
帯広畜産大学 畜産学部 共同獣医学課程
帯広畜産大学は、北海道大学と共同獣医学課程としてのカリキュラムで教育を実施しています。
大学には産業動物臨床棟、産業動物飼育棟があり、牛や豚といった産業動物の実習が充実しています。
岩手大学 農学部 共同獣医学科
東京農工大学との共同獣医学科です。
畜産が強みの岩手県のフィールドを活かした、地域との連携による実習が魅力です。
東京大学 農学部 獣医学課程(農学生命科学系)
学部の獣医学教育は、獣医学教育モデル・コア・カリキュラムに沿った講義・実習を基盤にしつつ、国際的に通用する獣医師の育成を掲げ、英語で行う専門科目も位置づけられています。さらに海外実習や学生交流など、国際的な学びの機会を設ける方針が示されています。
参考)
東京大学獣医学専攻
東京農工大学 農学部 共同獣医学科
岩手大学との共同教育の枠組みの中で、東京農工大学側は立地特性も踏まえ、伴侶動物の臨床獣医学教育を重視し、動物医療センター等での臨床教育を進める方針が示されています。
あわせて感染症分野の教育研究拠点としての役割もあります。
参考)
学科の特色 | 共同獣医学科概要 | 東京農工大学共同獣医学科
岐阜大学 応用生物科学部 共同獣医学科
鳥取大学と共通に行う専門科目として、公衆衛生学・食品衛生学・環境衛生学・人獣共通感染症学などが配置され、さらに5年次には総合参加型臨床実習や公衆・家畜衛生インターンシップ実習が明記されています。
参考)
授業科目 – 共同獣医学科 | 岐阜大学 応用生物科学部
鳥取大学 農学部 共同獣医学科
岐阜大学との共同獣医学科です。
内容に応じて学生が移動して実施する例(狂犬病の実習は岐阜大学、インフルエンザの実習は鳥取大学等)が紹介されており、実習先が固定されない相互実施がカリキュラム上の特色のようです。
山口大学 共同獣医学部 獣医学科
鹿児島大学との共同獣医学部です。
1〜6年次を通して「斉一教育科目(基礎獣医系/応用獣医系/臨床獣医系)」を履修する流れが明示されています。
臨床獣医系では学内外施設での参加型実習を行い、4〜6年次には研究室配属・卒業論文など発展的内容へ進む構成です。
参考)
共同獣医学部での授業カリキュラム実施方法 | 山口大学共同獣医学部
宮崎大学 農学部 獣医学科
大阪公立大学・東京大学との協定のもと、宮崎=産業動物、 大阪公立=獣医公衆衛生、 東京=伴侶動物臨床といった強みを生かし、教育内容を相互に補完する方針が示されています。
鹿児島大学 共同獣医学部 獣医学科
山口大学との共同獣医学部です。
附属施設として動物病院に加え、越境性動物疾病制御研究センターや畜産獣医学教育研究センター等が掲げられており、臨床と感染症・家畜衛生などの学びにつながる環境整備が示されています。
大阪公立大学 獣医学部 獣医学科
大阪という大都市特性を踏まえ、都市型獣医学教育(伴侶動物が多い環境、感染症防疫・食の安全など)を掲げています。
さらに学外の動物病院・大動物診療機関・食肉衛生検査所等での参加型実習や、家畜保健衛生所・保健所・空港検疫所等での職場体験が魅力です。
酪農学園大学 獣医学群 獣医学類
酪農学園大学の獣医学類は、少人数ローテーション制の「参加型実習」を特色として明示しており、伴侶動物医療・産業動物医療に学生が積極的に関わる形で実践力を高める方針です。
スキルスラボでトレーニングを積んだうえで臨床実習に臨むという流れを掲げ、臨床に入る前段の技能訓練を重視しているようです。
参考)
獣医学類 | 酪農学園大学 | 農食環境学群・獣医学群
北里大学 獣医学部 獣医学科
十和田キャンパスの環境(農場・牧場等)を教育に活用し、机上だけでなく体験を通じて学ぶ設計です。
国際面では、5年生が米国の獣医学部で2週間の臨床実習を行い、学外実習の単位として認定される夏期海外研修が紹介されています。
日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科
5年次に付属動物医療センターでの診察参加が明記されています。
また、5年次の例として「鳥・特殊動物の臨床」が挙げられています。
日本大学 生物資源科学部 獣医学科
付属動物病院の説明では、5年生後期に小グループで診療科をローテーションする「総合参加型臨床実習」を院内で実施することが明記されており、実習の運用が具体的です。
「エキゾチックアニマル学演習」「展示動物医学演習」「野生動物学」といった項目があり、学部の学びの幅として読み取れます。
麻布大学 獣医学部 獣医学科
隣接する大学病院の実習が充実しています。仮想現実技術(VR)を活用した実習等、先進的な取り組みにも力を入れています。
岡山理科大学 獣医学部 獣医学科
コア科目やアドバンスト科目など、科目区分を明確に分けたカリキュラム構成となっています。
5〜6年次に英語を用いた授業を含むアドバンスト科目(国際獣医事、医獣連携、ライフサイエンス等)が特徴的です。
獣医学部カリキュラムの実態:獣医師が学生時代を振り返って
獣医学部の1年次は、専門科目よりも基礎科目が中心で、動物に直接触れる機会は思いのほか少ないです。
私が在学していた頃も同様で、骨のスケッチや解剖学の座学、顕微鏡を使った組織観察が中心でした。
中でも特に印象に残っているのが「点描」です。
リンパ球などの血球細胞を顕微鏡で観察しながら、線を一切使わず鉛筆の「点」だけでスケッチするという、根気のいる作業でした。
非常に大変でしたが、あれほど血球をじっくり観察できる機会は後にも先にもなく、今となっては貴重な経験だったと思います。
なお、大学によっては1年次から動物に触れる実習をカリキュラムに取り入れ、他校との差別化を図っているところもあります。
学年が上がるにつれて、獣医学生の日常はいわゆる「朝から夕方まで実習、夜はレポート作成」というサイクルに変わっていきます。
3〜4年次に研究室配属が始まると、ほぼ一日中大学に滞在する生活になるため、他大学のサークルやインカレへの参加はほぼ現実的ではありませんでした。
私自身は、同じように多忙な医療系大学の学生が集まるサークルに所属することで、充実した大学生活を送っていました。
アルバイトも、研究室が本格化すると選択肢が大幅に絞られます。
時間管理の工夫は獣医学生にとって重要なスキルの一つといえるでしょう。
大動物(産業動物)の実習は、想像以上に体力を要するものでした。
当時は牛や馬の解剖実習で、麻酔をかけて処置するところから学生が立ち会うカリキュラムでした。
ただし、現在は実験動物に関する倫理基準の見直しにより、内容が変更されている可能性があります。
採血や処置の場面では大量の血液を目の当たりにすることもあり、気分を悪くする学生や、その場で倒れてしまう学生もいました。
それでも、教科書では得られない学びが詰まった実習であることに変わりはなく、獣医師としての土台を築くうえで欠かせない経験でした。
獣医学部の6年間のカリキュラムは、どの大学でも、獣医師として必要な基礎〜臨床・公衆衛生までを積み上げていく点では共通しています。
一方で、共同獣医学課程のような教育体制、臨床実習の進め方や学外実習の先、附属病院・演習施設の使い方などは大学ごとに差が出ます。
受験生の方は将来どんな獣医師像を目指したいかを軸に、各大学の公式カリキュラムの見せ方と実習の説明を見比べると、志望理由にもつながりやすくなりますのでおすすめです。












