「AIに仕事が奪われる時代」と言われる今、獣医学部への進学を考えているなら、「獣医師に将来性はあるのか」と不安に感じることもあるでしょう。
6年間という長い勉強期間と難関な入試、さらに卒業後の働き方まで考えると、進路選択は慎重になるのは当然です。
この記事では、獣医師の将来性・卒業後の進路・仕事のリアル・大学の選び方まで、獣医学部卒業生、獣医師の視点でわかりやすく解説します。
獣医師の将来性
「AIに仕事を奪われる」という話題が広まるなか、獣医師の将来性を心配している受験生は少なくないでしょう。
医療の現場でもAIによる画像解析や記録補助の活用が進んでおり、獣医療も例外ではありません。しかし、AIはあくまで補助ツールです。
動物は症状を言葉で伝えられないため、触診・視診・問診を組み合わせた総合的な判断は、人間の獣医師にしかできません。
では、獣医師の需要は今後どうなるのでしょうか。
結論からいえば、安定的に続く可能性が高いです。その主な理由は以下のとおりです。
①ペット市場の拡大
日本のペット関連市場は2025年度に約1兆9,257億円規模に達しました。今後も拡大が続く見込みです。
犬猫の飼育数はすでに国内の子ども人口を上回り、さらにペットの長寿化にともなう高度医療への需要も高まっています。
ペットへの年間医療費支出はこの10年で約50%増加しているという調査もあります。
動物病院を訪れる患者数1頭あたりの医療ニーズからも、獣医師の需要は拡大しているといえるでしょう。
②公衆衛生・食品安全の需要
食肉・食品の衛生管理、検疫、感染症対策(ワンヘルス)など、人の健康に直結する分野でも獣医師の専門知識は不可欠です。行政・公務員領域の需要は社会情勢に関わらず安定しています。
獣医師は「動物を診る医師」というイメージが強いですが、製薬会社の研究職や食品会社の品質管理、大学・研究機関での研究者など、免許を活かした多様なキャリアが存在します。特定の分野や雇用形態に依存しない働き方ができる点も、将来性という観点では大きな強みです。
獣医学部卒業後の進路から見る将来性
獣医学部を卒業したら動物病院で働く、というイメージを持っている方が多いかもしれません。
しかし実際には、獣医師免許を持ちながらもさまざまな分野で活躍している卒業生が数多くいます。進路の幅広さを知ることも、将来性を考えるうえで重要な視点です。
| 進路 | 主な仕事内容 |
|---|---|
| 小動物臨床 | 犬・猫などのペットを対象とした動物病院での診療 |
| 大動物臨床 | 牛・馬・豚などの産業動物・競走馬の診療 |
| 公務員(検疫・衛生) | 食肉衛生検査、検疫、家畜保健衛生所での勤務など |
| 企業(製薬・食品) | 動物用・人用医薬品の開発、食品の品質管理など |
| 研究職 | 大学・研究機関での基礎研究・臨床研究 |
農林水産省の届出状況調査(令和4年)によると、届出獣医師40,455名のうち小動物診療が16,541名(40.9%)と最多を占めています 。
一方で、
- 公務員(農林水産・公衆衛生分野)が9,213名(22.6%)
- 産業動物診療が4,460名(11.0%)
- 民間企業等その他の分野が5,955名(14.7%)
と、臨床以外の多様な進路が全体の約59%を占めており、獣医師免許を活かしたキャリアが幅広いことがわかります 。実際に獣医学部の同級生の中にも、卒業後に必ずしも獣医師として働いているわけではない人もいます。

獣医師の将来性と仕事のリアル
ここまで見てきたとおり、獣医師という職業は将来的になくなる可能性は低いといえます。しかし、将来性があることと楽な仕事であることはまったく別の話です。
年収については、厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」によると平均年収は680.5万円と日本の平均より高い水準といえます 。
ただし、同じ6年制大学卒の医師・歯科医師と比べると低く、仕事量に対して給与が割に合わないと感じる獣医師が多いのも事実です 。
労働環境についても、残業が多く拘束時間が長いという声は多く、約2人に1人が現在の働き方に満足していないという調査結果もあります 。
仕事の大変な点としては以下が挙げられます 。
- 動物の命に直結する判断を常に求められるプレッシャー
- 夜間・休日の緊急対応
- 飼い主への丁寧なコミュニケーション
- 自分のケガや感染症リスク
- 最新の医療技術を継続的に学ぶ必要性
獣医学部卒業生、獣医師という立場から憧れだけではなく現実の体験を踏まえて考えると、動物が好きという獣医師がほとんどですが、好きすぎても務まらない職業かもしれません。
一時期「やりがい搾取」という言葉が流行りましたが、獣医師も例外ではないと思います。
将来性から考える獣医学部・大学の選び方
獣医学部・大学を選ぶときには、獣医師の将来性や進路・仕事のリアルを踏まえたうえで、改めて「獣医学部への進学が自分に合っているか」を考えることが重要です。
獣医師免許を取得するには、獣医学科(6年制)を設置している大学を卒業し、獣医師国家試験に合格する必要があります。
獣医学科を設置している大学は全国に17校しかなく、医学科の81校と比べると非常に限られています 。
偏差値は国公立大学で60〜65前後、私立大学でも60前後が求められ、理系学部の中でもトップクラスの難関です 。
獣医師国家試験の合格率は近年変動があり、第77回(2026年)では新卒83.9%となっています 。6年間の学習と国家試験突破を覚悟したうえで進路を選ぶ必要があります。
また、「動物に関わる仕事に就きたい」という気持ちがあっても、必ずしも獣医学部・獣医師免許が唯一の選択肢ではありません。
動物看護師(愛玩動物看護師)や畜産学、動物行動学など、別の資格・学部・学校で活躍できる道も存在します。
獣医学部への進学を決めたなら、どの大学を選ぶかも重要です。以下の観点を参考に検討してください。
| 観点 | チェックポイント |
|---|---|
| カリキュラム | 小動物・大動物・公衆衛生など、自分が目指す分野に対応した授業内容か |
| 研究・医療設備 | 附属動物病院の規模、最新の医療機器・研究設備が充実しているか |
| 進路実績 | 卒業後の就職先・大学院進学・国家試験合格率の実績はどうか |
| 立地・学費 | 国公立か私立か(学費は国公立約350万円、私立は1,000万円超が目安) |
獣医師は、今のところ、AIに代替されにくく、ペット市場の拡大や公衆衛生分野の需要を背景に、将来性のある職業といえます。
一方で、6年間の勉強、国家試験、厳しい労働環境といった現実も存在します。
これらをしっかり理解したうえで進路を選ぶことが大切です。
受験する獣医学部を選ぶ際には、
- 受験形式での入りやすさ
- 学費
- どんな獣医師になりたいのか
の3つを軸に考えると良いでしょう。
獣医学部を実際に受験した経験からすると、 正直なところを言えば、どうしても獣医師になりたいなら、自分の成績で合格できる可能性がもっとも高い大学を選ぶことが最優先です。
もう一歩踏み込んで考えられるなら、「将来どんな獣医師になりたいのか」まで視野に入れられると理想的です。
職域(小動物・大動物・公務員・研究など)はもちろん、「どんな大学生活を送りたいのか」という視点も、実はその後の獣医師としての姿に大きく影響します。
現役獣医学生の話を聞いたり、学祭やオープンキャンパスに足を運んだりしで大学の雰囲気を直接感じてみることを強くおすすめします。











