法獣医学とは?学べる大学となり方

法獣医学とは?学べる大学となり方

法獣医学は、動物の法的問題を科学的に解明する新しい分野です。動物虐待や不審死の調査において重要な役割を果たすこの学問は、近年注目を集めています。この記事では、法獣医学の基本概念から、法獣医学者になるための道のり、そしてその仕事内容や将来性までを解説します。

法獣医学とは

法獣医学とは、動物の状態や置かれた環境を科学的に分析し、法的な問題を解決する学問です。不審死や動物虐待といった問題に対して、科学的知見を用いて原因を同定する役割を果たします。これにより、動物界における「法医学」として、重要な役割を担っています。
法律的には、動物は「物」として扱われますが、2019年に改正された動物愛護法により、獣医師は動物虐待に対する通報義務を負うこととなりました。したがって、動物虐待の根拠となる科学的知見が求められる場面が増えてきている状況です。法獣医学の知見があれば動物虐待に限らず動物の死因の特定が必要な場合に、病理解剖や毒性検査、血液型検査等を含むDNA検査などの法医学的手法を用いて死因を特定し、報告書を作成して法的証拠として提供することができます。
対象動物は、ペットとなるような愛玩動物だけでなく、産業動物や野生動物、動物園動物などの展示動物も含まれます。
日本においては、法獣医学はまだ新しい分野ですが、海外ではすでに進んだ学問として確立されています。日本でも、日本法獣医学会が設立され、この分野の研究と発展が進められています。
参考)日本法獣医学会
また、法獣医学に関する書籍『野生動物の法獣医学: もの言わぬ死体の叫び』や、漫画『ラストカルテ-法獣医学者 当麻健匠の記憶-』など、一般の人々にもこの分野を理解しやすくするための媒体も増えてきています。
参考)
本「野生動物の法獣医学: もの言わぬ死体の叫び」
漫画「ラストカルテ-法獣医学者 当麻健匠の記憶-」

法獣医学を学べる大学

法獣医学という科目は、日本の大学ではまだ専門的に学べる場所が少ないのが現状です。法獣医学を学べる大学やカリキュラムを持つ大学は非常に限られていますが、学ぶ機会や研究の機会が全くないわけではありません。

北海道大学

北海道大学では、サマーインスティテュートの一環として法獣医学を学べるリカレントコースを提供しています。このコースでは、法獣医学の基本から実際のケーススタディ、動物中毒の分析診断まで幅広く学ぶことができます。
参考)法獣医学リカレントコース

日本獣医生命科学大学

日本獣医生命科学大学の生命科学総合研究センターでは、特任教授の田中亜紀氏が法獣医学に関連する研究を行っています。
参考)日本獣医生命科学大学

酪農学園大学

酪農学園大学の浅川満彦教授は、法獣医学ミステリーの漫画ラストカルテの監修や野生動物の法獣医学的な案件に取り組んでいます。これには、交通事故や中毒、感染症などが含まれ、自治体や警察署、保険会社からの依頼を受けて研究を行っています。
参考)酪農学園大学

東京大学

東京大学大学院農学生命科学研究科の獣医病理学研究室では、法獣医学という名称こそ使っていませんが、動物の病気の原因や成り立ちを究明する研究が行われています。
代表例として東京大学を挙げましたが、獣医病理学は多くの獣医大学に研究室があります。
参考)東京大学大学院農学生命科学研究科

日本法獣医学会

日本法獣医学会もシンポジウムを開催し、法獣医学の世界について議論する場を提供しています。獣医師が参加できるものもあれば、対象者の制限がない場合もありますので、都度詳細を確認してください。海外より法獣医学の専門家を招いて、法獣医学の国際シンポジウムを開催することもあります。
参考)日本法獣医学会シンポジウム

法獣医学者のなり方、資格

この資格を取れば法獣医学者になれるという明確な資格は現在のところ存在しません。一般的には、学者になるためには大学で学士号を取得、大学院で修士号と博士号の取得を目指すという道があります。
法獣医学者になるためには、獣医学の知識に加え、法獣医学に関する専門知識と経験を積む必要があります。獣医学の学位を取得した後、法医学、犯罪学、または関連分野で修士号や博士号を取得することで、法医学的な知識と技術を深める方法もあります。海外の大学では法獣医学コースが設置されていることもあるようです。現時点では、必ずしも獣医師の資格が必要という訳ではありませんが、獣医師の資格を取得する際の学問は、法獣医学者にとっても有益な内容となるでしょう。
参考となる資格としては、獣医師の他に日本野生動物医学会が認定する専門医資格があります。これは、動物園動物医学、野生動物医学、水族医学、野生動物病理学・感染症学、鳥類医学の専門医試験を経て取得できます。これにより、動物に関する法的問題を扱うための深い知識と技能を証明することができます。
参考)日本野生動物医学会
法獣医学者として活躍するには、実際の案件を通じて経験を積み、専門的な知識を磨き続けることが重要です。これにより、動物虐待や不審死などのケースにおいて、科学的かつ法的に有効な証拠を提供する専門家としての信頼を築くことができます。

法獣医学の仕事内容と年収

法獣医学の仕事は、交通事故、中毒、感染症、虐待など、動物に関連する様々な問題に対処します。具体的には、動物の不審死体の解剖検査や、動物の死因を解明するための検査を行います。これには、解剖検査、毒性検査、血液型検査、DNA検査が含まれ、現場視察に立ち会うこともあるかもしれません。

法医学や解剖医の動物版として考えると、その仕事内容がより理解しやすいでしょう。例えば、漫画『ラストカルテ』でも法獣医学の仕事が詳細に描かれており、読者にその重要性と現実の仕事の一端を伝えています。

しかし、法獣医学者としての年収については未知数な部分が多いのが現状です。一般的な法医学者は医師の中でも比較的年収が低い傾向にあり、法獣医学者の年収も、一般的な獣医師より低くなる可能性があります。したがって、法獣医学者としての活動は、経済的な面だけでなく、社会的な意義や自己の使命感が大きな動機となるでしょう。
一般的な獣医師の給与や年収についてはこちらをご覧ください。→獣医の給料と年収

日本では、法獣医学を専門に学べる大学はなく、法獣医学と直接結びつくような職業もなかなかないというのが現状です。しかし動物愛護法の改正により法獣医学の重要性が高まっています。動物愛護法を所管する環境省が、公務員獣医師向けに「動物虐待等科学的評価研修会」を開催したという情報もあります。このように、学ぶ機会がないわけではなく、学者としての道以外では、獣医師として社会に出た後必要に応じて学ぶという形が多いのかもしれません。現時点で学生のうちから頑張りたい場合、注目する学問は獣医病理学ではないでしょうか。動物の死亡原因を調べるという点では、日本の獣医学カリキュラムの中で最も近いと思われますし、病理検査の技術を学生のうちから深く身に着けることができます。
法獣医学は、動物虐待と法律を繋ぐ際に必要になる学問ですから、日本でも法律が充実していくにつれて重宝されていくでしょう。今後の獣医大学や大学院の研究室にも注目です。

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