獣医学教育の指標の一つとなっているEAEVE認証について、わかりやすく解説しています。日本の獣医大学・獣医学部にEAEVE認証取得大学はあるのか、EAEVE認証の獣医大学を卒業するメリットは?といった疑問に答えます。
目次
EAEVE認証とは
EAEVE(European Association of Establishments for Veterinary Education/欧州獣医学教育機関協会)とは、1988年に設立された、欧州を中心とする獣医学教育の評価・認証団体です。
現在はオーストリアのウィーンに本部を置き、獣医学教育プログラムが「国際基準に適合しているか」を専門家チームが審査します。
EAEVEが運用する評価制度はESEVT(European System of Evaluation of Veterinary Training)と呼ばれ、カリキュラム、施設・症例数、教員体制、学生評価、卒後到達目標などを総合的にチェックします。
審査は公開された手順に沿って実施され、基準に適合した教育機関は「認証」のステータスを得ます。また、7年ごとにEAEVEにおいて、認証評価されており、認証の有効期間は7年間となります。
EAEVEの会員には欧州の獣医系大学を中心に、それ以外の大学も含まれます。世界最高峰の獣医大学と言われるロンドン大学王立獣医科大学Royal Veterinary College,University of Londonをはじめ、各国の主要獣医大学がリストされています。
参照)EAEVE / AEEE公式ホームページ(英語)
https://www.eaeve.org
日本のEAEVE認証大学
日本でEAEVEの認証ステータスが確認できるのは、以下の共同課程2件(国立4大学)と私立1大学の計5大学です。
EAEVE公式の最新ステータス表(2025年6月11日更新)および各大学の公式発表で確認できます。
VetNorth Japan(共同教育課程:北海道大学・帯広畜産大学)
北海道大学、帯広畜産大学は2019年12月にEAEVE認証を受けました。北海道大学・帯広畜産大学の共同獣医学教育プログラムとして国際認証を取得しています。
2012年4月に北海道大学獣医学部-帯広畜産大学畜産学部共同獣医学課程が設置され、
2014年10月にEAEVE会員校の教員による非公式現地調査がされました。
2019年7月にEAEVE本審査が行われ、2019年12月にEAEVEの評価基準を満たしていると認定されています。
参考)
EAEVEとは|VetNorth Japan 北海道大学・帯広畜産大学 共同獣医学課程
欧州獣医学教育認証評価 – 帯広畜産大学 獣医学教育国際認証推進室
VetJapan South(共同獣医学部:山口大学・鹿児島大学)
山口大学、鹿児島大学は2019年12月にEAEVE認証を受けました。山口大学・鹿児島大学の共同獣医学教育プログラムとして国際認証を取得しています。
参考)
獣医学教育評価|山口大学 共同獣医学部
EAEVE | 鹿児島大学 共同獣医学部
酪農学園大学
酪農学園大学は 2024年12月にEAEVE認証を取得しました。私立大学としてアジア初、かつ単独大学としての取得もアジア初です。
酪農学園大学では、2018年度頃よりEAEVE取得へ向けて、動物に携わる前にモデルやシミュレーターで事前訓練が可能なスキルスラボの整備や附属動物医療センターの改修など、さまざまな取り組みを行いました。
2024年12月にEAEVEの評価基準を満たしていると認定されています。
共同課程が含まれるため国立4大学(北海道・帯広畜産・山口・鹿児島)+私立1大学(酪農学園)=計5大学という数え方になります。
日本に獣医系大学は17校あります。上記以外に名前がない、
はEAEVE認証がない大学となります。(2025年10月時点)
EAEVE認証大学を卒業するメリット
日本にある獣医大学のなかにはEAEVE認証を取得していない大学もありますが、EAEVE認証大学を卒業するメリットはあるのでしょうか。
EAEVE認証は教育課程の国際基準への適合を第三者が確認した“品質保証”といって良いでしょう。進学先を検討する高校生にとって、次のように3つのメリットがあります。
1) 卒業時に求められる力(Day One Competences)を満たす教育を受けやすい
EAEVEの審査は、カリキュラム、症例数、実習、施設、教員体制、学生評価などを総合的に点検し、卒業時に求められるDay One Competences(臨床獣医師としての初日)に必要な知識・技能・態度に達しているかを確かめます。
つまり、臨床の現場に出るための最低限の実力が身につく設計になっているかを、外部の専門家が確認しているということです。そのため国際基準を満たしている教育を受けられるというメリットがあります。
2) 海外での登録・就業の手続きで評価材料になりやすい
国や時期によって扱いは異なりますが、EAEVE認証大学を卒業して獣医学位を取ったことは、教育の質の裏づけとして国際的な手続きで参照されやすい位置づけです。
例えば英国RCVS(王立獣医師会、Royal College of Veterinary Surgeons)では、EAEVEの認証・承認下にある日本の指定プログラムの卒業資格を登録に必要な資格として明示しています(卒業年の有効期間には注意が必要です)。
2025年1月7日更新のRCVS公式ページでは、以下が認定資格として掲載されています。
・鹿児島大学・山口大学(VetJapan South):2019年6月〜2026年6月の卒業
・北海道大学・帯広畜産大学(VetNorth Japan):2019年7月〜2026年7月の卒業
・酪農学園大学:2024年12月〜2030年10月の卒業
これ以外の時期や校名は、RCVS法定試験を受けるなど別手続きになります
※英国RCVS(王立獣医師会)はEAEVE認証学位の取り扱いを「最長5年の暫定継続、毎年見直し」とする方針を決定しています。将来の要件は変更され得るため、最新の情報を必ず確認してください。
EUでは獣医学位は、EU加盟国内であれば他国でも原則そのまま資格として認められます。これを自動承認といいます。日本の学位は自動承認にならず、国ごとに追加手続きが必要です。
このように国ごとに決まりがあり、その決まりも変わっていくため、常に最新情報の確認が必要ですが、海外で働く際には有利に働く可能性が高いといえる点はメリットとなります。
参照)RCVS公式ホームページ
https://www.rcvs.org.uk/home
https://www.rcvs.org.uk/registration/join-the-register-of-veterinary-surgeons/japan/
3) 交換留学・共同研究・海外実習の門戸が広がりやすい
EAEVEが運用する評価制度、ESEVTの評価手順では、学生の交換留学や海外実習などを促す取り組みや実績も点検対象です。
同じ評価手順によって認証を受けた大学同士は連携を取りやすいため、海外での学び・経験の機会が増えやすいことが魅力です。大学在学中に留学をしたり、海外経験を積んでみたいと考えている場合は、メリットとなる可能性が高くなります。
4) 海外志向でなくても、学内環境・症例・教育体制の“見える化”という価値
国内進路が前提でも、一定水準の症例経験や教育体制が、外部機関によって保証されているという点は、獣医大学受験生にとって魅力的です。入学後に学べる中身がイメージしやすいため、受験校を決める際の比較検討に役立つかもしれません。
EAEVE認証は教育の質を保証する制度で、獣医師免許そのものではありません。それでも、海外で働きたいときに役立つ場面があり、国内進路でも授業や実習が一定の水準にある大学かを見きわめる材料になります。大学卒業後に日本で獣医として働く場合には、関係ないことが多いかもしれませんが、将来海外で獣医として働きたい、国際的な獣医を目指しているという場合には大きなメリットとなる可能性があります。
EAEVE認証大学の卒業の取り扱いは国ごとに変わります。進学先や将来の働き方を考えながら、必ず公式情報で最新の内容をチェックしてください。